第3回となるユネスコ世界文化遺産講演会「世界遺産の意義―持続可能な世界に向けて」を2024年8月24日(土)に札幌市で開催し、116名の方にご参加いただきました。
この講演会ではユネスコの活動と文化遺産の保存活用に造詣の深い講師をお招きして、世界文化遺産への取組みがこれからの世界の中で持つ意義について、またその価値の世代を超えた継承の努力が、北海道の人々のより良い生活のために果たす役割について考えました。
週末にも関わらずご出講いただいた講師の方々、ご参加いただいた皆様をはじめ、講演会の開催のため多大なご協力を賜りました札幌ユネスコ協会、後援者各位ほか関係者の方々にお礼申し上げます。
日時:2024年8月24日(土)15時30分開場 16時開会 18時閉会
会場:札幌パークホテル(札幌市中央区南10条西3丁目)3階「エメラルド」
主催:北海道世界文化遺産活用推進実行委員会
協力:札幌ユネスコ協会
後援:北海道石狩振興局・北海道教育庁石狩教育局・札幌市教育委員会
二度の世界大戦をはじめとする国家・民族間の紛争を通じて膨大な文化遺産が失われてきた経験を踏まえ、1945年に設立されたユネスコはその憲章の冒頭に「世界の遺産」の保存と保護を謳っています。この理念は1972年のユネスコ総会における「世界の文化遺産及び自然遺産の保護に関する条約(世界遺産条約)」の採択として結実しました。
以来半世紀を経て、現在ではユネスコ加盟国のすべてが世界遺産条約を批准し、世界遺産の数は1,200件を超えるに至っています。そのように全世界からの参加を得て非常に成功した制度となった世界遺産ですが、西欧を中心とした地域への偏在、国家間の経済格差の影響、遺産価値自体よりも国家主権やナショナリズムが優先する傾向、開発との対立、過剰な観光の弊害など少なからぬ問題を抱えてもいます。
そうした中で講師は、遺産をそれを生み出した固有の文化の文脈の中に置いて総合的に評価する姿勢は日本が提唱したものであり、そのことを通じて異文化の理解・尊重という制度本来の理念の実現に向けて寄与したことを紹介しながら、主権国家秩序の中にあっても多文化が共生し、世代間の融和する世界の実現に向けて世界遺産制度が果たす役割を解説しました。
後半の対話の部では鈴木講師のほかに札幌市内の高校生 井田たまきさんと横道 漸[ぜん]さんにも登壇していただき、北海道大学で世界遺産について学ぶ学生を指導している西山教授の司会により、若い二人からの質問と講師の答えを軸に、今日の世界の中で世界遺産の価値を継承していくことの意味を考えました。
世界遺産という制度、あるいは異文化を理解するということは平和の維持、紛争の緩和のために実際に貢献できるのか。文化遺産の価値の理解を深化させるうえで、日本の果たした役割は何か。様々な世界遺産の中で「北海道・北東北の縄文遺跡群」が特に担っている貴重な価値とは。世界遺産の価値を保全するうえでの緩衝地帯、あるいは広く自然・人文環境の役割とは。近代・現代の建築物や遺跡が世界遺産として登録されるのはどのような場合か。どのような遺産が悠久の時を超えて継承されるのか。世界遺産の数の増加がその価値や観光振興・地域活性化の可能性を損ねることはないのか。世界遺産をめぐる観光には、他とは異なるどのような特徴があると言えるのか。
率直な質問と深い知識・経験に基づく回答の往復を通じて、世界遺産を継承することの意味を会場の皆様にもより深くご理解いただけたものと思います。
当日の録音に基づき、講演会の内容を記録した冊子を作成し、2024年11月25日に公開しました。講演・対話内容の詳細のほか、対話に参加した高校生の感想、参加者アンケートに記入されたご質問に対し新たに起稿いただいた講師の回答などを収録しております。