2024年度の調査研究事業では「北海道・北東北の縄文遺跡群」のインタープリテーション等の推進のため、関係者に広く支持され共有の可能な結論を導くことを目的に、国内で文化遺産の価値の伝達に取り組む専門家・担当者が参加する「北海道・北東北の縄文遺跡群の価値と普及に関する会合」を11月2日・3日の2日にわたり札幌市内で開催しました。
この機会に、会合に参加した専門家のうちお二人のプレゼンテーションを出席の専門家・担当者以外にも公開し、この文化庁補助による調査研究事業への理解と関心を深めていただくこととし、11月3日午後に「公開講演会」を開催しました。文化遺産の価値の伝達と活用に関心を持ち、この講演会にご参加いただきました皆様にお礼申し上げます。
日時:2024年11月3日(日、祝)13時より15時40分まで
会場:北海道大学地球環境科学研究院D201教室 (札幌市北区北10条西5丁目)
主催:北海道世界文化遺産活用推進実行委員会(事業委託者)
運営:公益財団法人北海道埋蔵文化財センター(事業受託者)
司会:北海道大学国際広報メディア・観光学院/アイヌ共生推進本部准教授 岡田真弓
西山講師が所属する北海道大学観光学高等研究センターでは「コミュニティを基盤とし、コミュニティが主体性を持って、自律的に観光振興を進める」Community-Based Tourismを研究テーマの一つとしています。その具体例として、アマゾン川源流部の高地に栄えた「チャチャポヤ文化」の遺産を世界遺産として登録したい、というペルー政府からの依頼をきっかけにはじまり、2019年から6年間にわたり実施されてきたエコミュージアム構築の試みが紹介されました。
南北100㎞にわたる広大な地域の中で⾃然景観と遺跡群、そしてそれらと共⽣する⼈々の暮らしが織りなす文化的景観の価値の構成を整理・明確化し、コミュニティーに対応したディスカバリートレイルとコア博物館の整備を進めながら住民の間でインタープリターを育成することを通じて、遺産の保護と地域コミュニティの発展をともに実現させる観光開発を目指した雄大な取組みの模様は、参加者に感銘を与えました。
近年新たに世界文化遺産となる物件は、見た目にわかりやすい華々しさはないとしても、人類の歴史の多様性や地域ごとの個性を色濃く反映した内容のものが増えています。こうした遺産の価値が正しく理解されるためにはインタープリテーションの充実が欠かせません。そしてその充実の本質は、何よりも遺産のある土地の人びとが地元の歴史や文化の個性的な価値への理解を深め、その保存・活用の担い手=文化遺産についての真のステークホルダーとして成長することにあります。
文化庁の専門家として文化財の保存活用に携わってきた講師からは、世界文化遺産「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産群」構成資産の場合を例にとり、地域のコミュニティが文化遺産の価値の理解と伝達に取り組んできた模様が紹介されました。同時に、この世界遺産とも一部重なる重要文化的景観「長崎市外海[そとめ]の石積集落景観」などと比較しながら世界遺産の物語る価値の特性が指摘され、「北海道・北東北の縄文遺跡群」のインタープリテーション発展への示唆が与えられました。
この講演会の成果を普及するため、当日の録音等に基づき逐語の内容を記録した冊子を作成し、2025年1月10日に公開しました。講演の詳細のほか、当日のスライドの一部、アンケートに記入された参加者の感想などを収録しております。また、開催当日の参加者に配布された講演要旨は、北海道埋蔵文化財センターが作成した2024年度調査研究業務の報告書の「附録」に収録して2025年3月31日に公開しました。